君じゃなければ



緑川さくら。


私のクラスメート。

スカートは短く、髪は茶色に染め、違反と分かるくらいの化粧をしている女の子。

クラスのギャル系の子達の中心的存在であるが、この学校は進学校。

そもそもギャル系の子は少なく、

進学校では少し浮いているタイプだった。



『ちょっと…!何するの!?』


『ごめーん、手が滑ってー。』


『手が滑ったってそんな……。大丈夫?櫻田さん…。』



あははっと声高らかに笑う緑川さん達。

分かっている。

これは手が滑ったのではなく、ワザとだという事を。



『うん、大丈夫。』


当たった所は背中だったし、たいした事はない。

体育の授業中によそ見をしていたのは事実だし、騒ぎ立てたくもなかった。

けれど、私のその態度すら気にくわなかったらしい。



『余裕こいてんじゃねえよっ。』



ボソッと聞こえた声に悪寒を感じ、顔を上げると…



『ッツ!!』



顔面にボールが投げつけられていた。



『櫻田さんっ!?』



2球目のボールは私の顔面に見事命中し、仕事を終えたかのようにコロコロと床に転がった。

さすがに体育館の中がザワッとする。



『おい、どうした?』



四組の対応に行っていた体育教師が、駆け足で戻ってきた。



『あの子がぁ、よそ見ばっかしてて、ボールを顔面で受け止めちゃったんですぅ。』


『ちょっと…!』



私を庇おうとした飯田さんを緑川さんはギロリと睨みつける。

まるで蛇のような目だった。

私も緑川さんの言葉を否定する気もなく、

ただただ顔が痛くて、手で押さえていた。

顔面でボールを受け止めるなんて、小学生の時のドッジボール以来だ。



『おい…櫻田、大丈夫か?』


鼻血は出ていないだろうが、正直痛い。

でもここは無難に……


『あ…だい』


大丈夫。

そう…言いかけた時ー……




『大丈夫なわけ…ないじゃないですか。』 




私の言葉を遮るように、

一人の男子生徒が声をあげた。