あの事故の件以来…
私達姉弟の関係は大きく変わった。
郁は右手に麻痺が残り、そして声を失った。
声については、精神的な理由が大きいらしい。
つまり二度と声が出ないと決まったわけではないのだ。
せめて声だけでも……
そう思った父と母は、あらゆる専門医に診せたが……
郁の声が戻る事はなかった。
そして………
『よりによって郁じゃなくても…』
そう言いながら泣き崩れる母。
その姿が私にとって母の最後の姿になった。
事故から半年後、父と母は離婚した。
そもそも互いに家庭より仕事を優先させる二人。
長続きしていたのは郁がいたから。
郁だけが私達家族を繋いでいた。
郁の才能が…。
その郁の才能が欠けた瞬間、私達家族はもろくも壊れた。
離婚後、私は父に、弟の郁は母に引き取られた。
引き取られたと言っても、面倒を見てくれるのはそれぞれの祖父母だった。
自分達が面倒見るわけでもないのに、私達が離れ離れになるのはきっと……
母が私を嫌っているから。
母はどうしても私を引き取りたくはなかったのだろう。
大切な息子の才能を奪ったと、心の中で私を責めているはずだから。
櫻田凛(さくらだりん)。
それがこれからの私の名前。
私は九州にいる父方の祖父母の所に、郁は母の勧めで有名な先生がいる都会の病院へ。
それで郁とは離れ離れになる。
でも、郁の為にはその方がいいのかも知れない。
郁にとって私はただの疫病神だから。
郁と別々に暮らすようになり、会えない日が何年も何年も続いた。
そして………
『うわぁ……』
十七歳の春。
私は生まれ育った町に戻ってきた。