病院に着くと俺は真っ先に、母の病室へと向かった。

少しでも早く母に会いたい。

高まっていく鼓動は、走っているせいではないと俺は気づいていた。


『こらっ!病院では走りませんよ!』


『ごめんなさいっ!』


怒られても笑顔で謝れるくらい、俺は浮かれていた。



久瀬京香。


母の名前が書かれたプレートの部屋。

病室の前に着くともう一度身なりを整えた。

子どもなりの見栄だ。


それから……


ガラガラ………


俺はゆっくり病室のドアを開いた。


『か、母さん……?』


俺の声は少しだけ裏がえっていたかもしれない。

緊張しているのはバレバレ。

ベットに横になっている母は優しく俺に笑いかけてくれた。

そしてかすれるような声で……


『朝日……』


俺の名前を呼んだ。

たったそれだけなのに…

俺は嬉しくて、嬉しくて……

涙が止まらなかった。


母が無事だった事も、母が俺を見てくれている事も、全てが嬉しかったのだ。



これからは母と俺の二人で支え合って生きていけばいい。

全て良い方に向かっている。

辛い思いをした分、幸せになっていいはずだ。


そう……思っていた。


この時の俺はまだ何も分かってはいなかったのだ。