君じゃなければ



交番に着くまでに時間はかからなかった。

むしろ着いてからの方が大変だった。


交番にいた警察官は俺のボロボロになった格好を見てびっくり。

それに小学五年生とは思えないほど、しゃべりが下手くそで、おびえている俺にどう対応していいのか頭を抱えていた。

俺だって早く母を助けに行って欲しいのに。

他人と…大人と話す事に慣れていない俺はうまく説明する事が出来なかったのだ。



それでもなんとか話が伝わると、警察官の人達は急いで俺の家へと向かってくれた。



大丈夫、きっと大丈夫。

念の為、交番で待つ事になった俺はひたすら母の無事を祈った。

お願い、どうか…

何でも分かったフリして、母からの愛に気づきもしなかった俺を……


“バカな子ね”


って叱って欲しい。

それから、俺にも……


“愛している”


と言わせて欲しい。

言葉が足らなかったのなら、今からでも遅くない。

たくさんたくさん言わせて欲しい。

だから……


どうか無事でいて。



母が無事なら…

無事でいてくれるならそれでいい。

俺は母の無事だけを祈っていた。



その時………



ジジージー………


交番に置いてあった無線に連絡が入った。

もしかしたら母の事かも知れない!

そう思い、俺は耳を済ました。


けれど……


『交通事故発生、交通事故発生。場所は……』


母の事ではなかった。

ふぅっと心を落ち着かせたのもつかの間。

俺は無線から聞こえてくる情情報に耳を疑った。


何故ならそれは…

事故をおこした車は……



バイトで使っていた親父の大型トラックだったからだ。