何が起こっているのだろう。
どうして親父が注射器で母の腕を射しているのだろう。
注射器はお医者さんが使う道具なはずなのに。
どうして親父が……
どうして母が……
どうして…泣いてるのだろう。
理由なんか俺には分からない。
分かるのは俺が…
『やめろよ!』
バカだと言う事。
母に期待したって無駄だと知っているはずなのに……
守らなきゃ!
そう思って親父の前に飛び出してしまうのだから。
『朝日っ!』
母の顔はいつもより青ざめていた。
放っておけるはずがない。
例え無駄だとしても……
母が俺を愛していなくても……
『朝日っ!やめなさい!やめて!違うの……』
『嫌だ!』
『朝日っ!』
『何も違わない…。母さん泣いてるに…あいつが泣かせてるのに…息子が守らなくて誰が守るんだよっ!』
俺は母を愛しているのだ。
『おいおいおいおい…“あいつ”って誰の事だぁ?あぁん?』
親父はいつにも増して焦点が合っていなかった。
息づかいも荒く、手も震えている。
壊れかけではない…。
もう親父は壊れてしまったのだ。
体全身に警報が鳴り響く。
この男の側にいてはならないと。
『なぁ朝日ぃ…お前に聞いてんだよぉ?“あいつ”って誰の事かなぁ?』
『…………』
『返事ぐらいしろやッツ!ボケェェエ!』
バーリンっと大きな音を立て、それと同時にガラスの破片が飛んだ。
気持ちが高ぶった親父は後ろの窓ガラスを手で割ってしまったのだ。
親父の腕からは血がポタポタと滴り落ちる。
痛覚がないのだろうか。
顔色一つ変える事はなかった。
これが俺の…俺の…父なのだ。
親父の姿に俺はゾッとした。

