君じゃなければ



ただただ、時間だけが過ぎていく中で………


俺は相変わらず小さいままだった。


月日が経ち、俺も小学五年生。


そう………

小学校五年生になったにも関わらず、整列の順番は決まって一番前の特等席。


ああ…校長先生の生えかけのあごヒゲがよく見える。


少しでも早く大きくなりたいと願っているのは俺なはずなのに。


どんなに牛乳を飲んでも願いは簡単には叶わないらしい。



学校の事を思い返しながら、俺はいつものように家路をゆっくりゆっくり時間をかけて歩いた。




帰りたくない。




その気持ちは薄らぐ事なく、むしろ日に日に強まっていくばかり。


それもそうだろう。


親父の暴力は弱まるどころか日に日に強くなっているのだから。

その体力を仕事に向けてくれたらどんなにいいか。

無駄な期待だと俺は笑った。


母も母だ。


以前のように見えない場所だけでなく、見える場所にも容赦なく殴るようになった親父をどうしてまだ見捨てないのだろう。


最近の親父は一度キレたらもう止まらない。


止まれなくなってるように見えた。


もう考える力すら残っていないのかも知れない。


そんな壊れかけの親父に尽くす意味が?


自分なら親父を立ち直らせる事が出来ると、本当に思っているのだろうか。


健気に尽くしているから?


もしまだそんな風に思っているのなら……



薄ら寒くて、笑う事も出来なかった。




そしてどんなにゆっくり歩いても、家には着いてしまうもの。


俺は音を立てないように玄関のドアを開けた。