俺の名前は久瀬朝日(くぜあさひ)。
父は久瀬雄大(くぜゆうだい)。
いい年こいてギタリストの夢を追いかけるボンクラだ。
母は久瀬京香(くぜきょうか)。
そんなボンクラ父に引っかかったどうしようもない人だ。
いつか本当に有名なギタリストになる!
…と言って定職にもつかず、母が働いてるスナックと時折してるらしい日雇いのバイトで何とか食いしのぐ毎日だ。
そして……
『酒がねぇぞっ!』
『すいません!』
『ちんたらしてんじゃねぇよ!』
『ッツ!』
機嫌が悪くなれば酒を飲み、母に手を上げる事もしょっちゅうだった。
幼心にこの男はもうダメだと気づいていた。
だから………
『お母さん…逃げよう。』
逃げてどこに行くあてがあるわけでもない。
だからと言ってこのままで良いはずがない。
俺は母とならどこにでも行ける。
子供なりに母親を守ろうとしていた。
けれど………
『ダメよ。お父さんにはお母さんが必要なの。』
母は決して父から離れようとはしなかった。
この時は何故、母が行動しないのか理解出来なかった。
でも共に過ごす時間がその答えを教えてくれた。
母は父を愛しているのではない。
残念ながら俺でもない。
母は……
父に尽くしている自分を愛しているのだ。

