君じゃなければ




あんなにも透き通るように美しかった郁の声が聞こえない。



優しく奏でる楽器の音も、あの右手ではもう聞くことは出来ない。



私がもっと周りをよく見ていれば…


私が横断歩道ではなく、歩道橋を使っていれば…


私が学校に行かず、ちゃんと郁を見送りに行っていたら……



こんな事にはならなかったはずなのに。



神様……



もし本当に神様がいるのなら……


どうして私ではなく郁を傷つけるのですか…?



私が……



“郁なんて生まれてこなきゃよかった”



と言ったせいですか?


一瞬でも郁を疎ましく思ってしまったからですか?


心の隅で郁の才能を羨ましく思っていたからですか?



そのせいで弟を傷つけてしまったというのなら……





それなら…私はどんな罰を受ければいいのでしょう。