君じゃなければ



運転した男は大量にお酒を飲んでいたらしい。


そして運転を制御出来ず信号待ちしていた歩道に突っ込んできたのだという。


それを知らされたのは病院のベットの上だった。


トラックの下敷きになり、あちこち怪我はしていたが命に別状はなかった。


二週間くらい安静にしていれば元の生活に戻れるらしい。


トラックの下敷きになったといっても場所が良かったそうだ。


この程度で済んだのは奇跡だと…不幸中の幸いだと病院の先生は言っていた。


でも、私は奇跡ではない事をしっている。


私は守ってもらったのだ。




ガラガラ…



私は隣の病室へと足を進めた。隣の病室には…



『郁…?』



弟の郁が入院している。


『どう?寝てばっかで体痛くない?』


『………』


『暇だし、ゲームする?携帯ゲームしよっか!特別だよー。』


『………』


『ゲームより絵本とかの方がいい?』


『………』


『あ、お腹空いてるでしょ?ご飯まで時間あるし!お菓子買ってこよっか?』


『…………』




今日なら…今度こそ…そう思って毎日郁の部屋に通う。


けれど返事をしてくれる事はなかった。


私はその場に立ち尽くした。



外傷はたくさんあり、骨折もしていたが、命をとりとめた郁。


けれど、右手には麻痺が残った。




そして……




郁は声を失った。