君じゃなければ



泣いてばかりで何一つ守れない私より、いつの間にか弟の方がしったり者になっていた。


『外国行って…いろいろ勉強して…たくさんお金をもらってくる!』


『え…?』


『そしたらまた一緒に暮らすの!』


『郁…何言ってるの…?』


『あの人達は音楽でお金をもらってるんでしょ?』


『え?あー…そうだね。』


『僕もそうする!お金をたくさんもらって、お姉ちゃんと二人で暮らせる家を買うの!今度は誰からも邪魔されない家を!』



郁の話は突拍子もなくて、私はポカンとしていた。

ただ分かったのは…

目の前にいる郁が結局外国に行く事は変わらないという事。

そしてそれは郁が私の為に決めた事。


『…家ってすんごいお金かかるんだよ。』


『え!?そうなの!?どれくらい!?』


『こーんくらい。いや、もっと!こーんくらい!』


私はその場で大きく手を広げた。


『ええ!?そんなに!?』


郁は目を丸くする。

それがおかしくて、私はケタケタと笑った。

私を見て郁もケタケタと笑った。


笑おう。


せめて笑って送ってあげなきゃ…

私に出来る事はそれくらい。


だから、いっぱいいっぱい笑おう。


『郁、帰ろっか!』


私は立ちあがり、郁に手を差し出した。


ギュッと掴んでくれる郁。


手から温もりが伝わってくる。


いっぱい泣いて、いっぱい笑ったから…


グゥ~


盛大にお腹の音がなった。


『あははっ!お姉ちゃんオナラしたぁ!』


『違うよ!お腹だよ!』


『帰ったらご飯だね!』


私達は手を繋ぎ、仲良く家路を急いだ。