「だーかーらー!分かってるって言ってるじゃないですかぁー」



職員室。


大人達の小難しい話し声や、室内に立ち込めるコーヒーの香り。


同じ学校の中だというのに全く異空間に感じるこの場所が、私はどうも苦手だ。


「いいか水島。“分かってる”って自分で言うヤツの大半は、全く分かってねぇんだ」


「えー。どういう理屈ですかソレー」



肥田ゴリラ。


もとい、担任の肥田先生は、自分のデスクに気怠そうに頬杖をつき、ふくれっ面の私に勘弁してくれよとばかりに大きな溜息を吐き出す。


その様子は、檻の中でつまらなそうに暮らす動物園のゴリラそのもの。


「いいか。もう一回言うぞ?」


「遠慮しときます。」


「いいから聞けや。このちくわ耳が!」


「いだーだだだっ!先生!体罰反対!」


肥田先生は、都合よく右から左へ抜けて行く私の耳を引っ張って、私の鼓膜に直接声を響かせた。



「お前次の中間テスト、もし1学期みたいな成績のままなら、留年決定だ。」