遠まわりの糸

「朱里、どした?」


俺は、努めて冷静な声で反応したつもりだけど、緊張でたぶん声が震えていたと思う。


「・・・お願い、帰らないで」


「まだ具合悪い?」


「違う、平気」


「じゃ、どうして?」


「私・・・サクのことが好き」


予想もしてなかった突然の告白に、めっちゃ動揺した。


早く返事しないと。


願ってもない、相思相愛なんだから。



「俺も、朱里が好きだ」


「じゃあ、私を特別な彼女にしてくれる?」


「もちろん」


「うれしい・・・」


朱里は、さらにギュッと抱きついてきた。


ヤバいって、胸が背中に密着してるって。


朱里の両手にそっと手を重ね、力を緩めさせると、振り返って朱里と向き合った。


俺を見上げてる朱里に、そっとキスした。


久しぶりのキスは、葵とは違うタイプの甘い香りがした。


「朱里、帰らないでって言ったけど、泊まっていいわけ?」


「いいよ」


「俺、酔って記憶をなくされるくらいなら、泊まりたくないんだけど」


「だいじょうぶ、もう酔ってないよ」


「ほんとかよ」


「ほんとだよ、サク」


朱里は背伸びすると、俺の頬に両手を添えて、チュッと軽いキスをした。