遠まわりの糸

「朔、その気持ちだけで充分だよ」


俺の腕の中にすっぽりおさまっている葵は、あまりにもたよりなくて、小さくて。


「また俺たち、つきあえるよな?」


「それは、無理じゃないかな」


「どうして?」


「だって、私はキャバクラで働いているから」


「そんなの関係ない」


「じゃあ、つきあってる彼女はキャバクラで働いてますって友達や家族に言える?」


「それは・・・友達には言えても、親に言うのはすぐには無理かもしれない」


「ね、そうでしょ?


やっぱりどこかで、キャバ嬢とつきあうのは恥ずかしいって思ってるのよ」


「そうじゃない、恥ずかしいって思ってない」


「じゃあなんで家族には言えないの?」


「それは、親世代はキャバ嬢に偏見があるから言いづらいっていうか・・・」


「たぶん、朔も偏見もってると思う」


「それは絶対にない」


「なんでそう言えるの?」


「だって、隣に座ってしゃべって、酒つくるだけだろ?


体売ってるとかなら話は別だけど」


「私が売ってないって信じられる?」


「信じられるよ」


「私は、お金のためなら何でもやるかもしれないのに?」


「葵はそこまでやらないよ」


「朔、堕ちるのは簡単だよ。


私だって、キャバクラで働くのは抵抗あった。


だけど、一度やったら何でもなくなった。


体売るのだって、そうかもしれないよ」