洋介と別れて、店の裏口で葵を待った。


葵は、店での華やかなドレスじゃなく、Tシャツにショートパンツっていうラフな服装であらわれた。


「葵」


「朔・・・帰ったんじゃなかったの?」


「今日を逃したら、もう葵に会えなくなる気がしてさ。


洋介と待ってたんだ。


俺ずっと、葵のことを想ってたから」


「朔・・・」


葵をそっと抱きしめると、高校生の時より痩せていた。


「今日これから、ほんとに時間ない?」


「えっと・・・」


「会えなかった時間を、取り戻したいんだ」


「でも、話しても何も変わらないから」


「変わらないけど、葵の気持ちを二人で分けあえるだろ。


きっと、何かつらいことがあったんだろうから、俺も支えたいんだ」


「私、朔に嫌われたくない。


高校生の私だけ、覚えててほしい。


だから、やっぱり・・・」


『無理』と言いそうな葵の唇をふさいだ。


「俺は、葵を嫌いになったりしない。


俺が信じた葵を、裏切ったりしない」


「ほんとに・・・」


「当たり前だろ」


「じゃあ、うちに来て」


「うち?」


「私いま、一人暮らしだから」


そう言って、大通りまで出てタクシーをひろった。


タクシーの中では、あまり話さなかった。


俺は、葵が一人暮らしだと思ってなかったから、驚いていた。


葵はたぶん、俺に全部を話す決意をしたから緊張していたんだと思う。


タクシーを降りて着いたのは、ごく普通のアパートだった。