待ち合わせ場所に向かうと、洋介は普段着ないようなジャケットを着ていた。


俺は普段着だから、Tシャツに短パンだった。


「おう、サク」


「洋介なんだよ、その服。


ちゃんとした服じゃないとダメなら、先に言えよ」


「いいのいいの、サクはそのまんまで。


じゃあ、こっちだから」


洋介は繁華街の方へ歩いていく。


「どこ連れて行くつもりだよ」


「いいからいいから」


どうでもいい話をしながら5分くらい歩いた。


「ここ」


洋介が指さしたのは、キャバクラだった。


「いいよ俺、こういう店は興味ねーし、金ねーし」


「俺がおごってやっから」


「おごられる理由なんてねーよ」


入り口でモメてる二人に、黒服の兄ちゃんが声かけてきた。


「お客さま、今のお時間まだすいてますし、どうぞ」


「ほらサク、いくぞ」


「・・・なんでだよ」


あんまり揉めてるのも恥ずかしいから、あきらめて入ることにした。


店に入ると、ほのかな照明といくつものソファー席があり、派手な服装の女性が何人もいた。


「サク、こっち」


洋介に導かれるまま席に座ると、二人の女性が俺たちのテーブルにやってきた。


「洋介、ほんとに来てくれたんだ」


「ありがとー」


「一回だけだからな」


「助かるー、で、こちらが前言ってたサクくん?」


「そうそう、キャバクラに縁ないヤツだから、お手柔らかにな」


「そうなんだー、初めてなんだー」


「よろしくお願いしまーす」


洋介が言うには、この二人は同じ専門学校へ通ってる同級生で、学費を稼ぐのに割のいいバイトを探すうちに、キャバ嬢になったらしい。


語尾を伸ばす甘ったるい話し方といい、ケバい化粧といい、まったく興味はなかった。


だけど洋介が、


「サク、あっちのテーブルの紫のドレスの子、見てみろよ」


と言うからチラ見した瞬間、呼吸が止まるかと思った。