『大好きな朔へ。


こんな形で離れることになってしまって、ごめんなさい。


父の転勤に、家族でついていくことにしました。


単身赴任という選択肢もあったんじゃない?って思ってるよね。


でも、父の転勤には理由があるので、単身赴任は心配だったんです。


父は、家電メーカーに勤めていますが、近年の業績悪化で父はリストラ対象者になりました。


父はリストラに応じませんでした。


会社からは、残るのであれば給与カットに加えて転勤もあり得ると言われたそうです。


父は給与カットだけなら暮らしていけると考えたそうですが、転勤を命じられました。


父は、会社で働くことに誇りをもっていました。


定年まであと少しなので、頑張ることに決めたそうです。


私はまだ高校生で、お金のことに関してはどうすることもできません。


家族で何度も話し合い、転勤してみんなで頑張ることに決めました。


朔と離れるのは、本当につらいし、さみしいし、悲しい。


だけど、私にとっては家族も同じくらい大切です。


朔と一緒にいられて、すごく嬉しいことばかりでした。


ありがとう。


私を忘れて、幸せになってね。


葵』




葵は、俺じゃなくて家族を選んだ。


その選択を責めるつもりはなかった。


だって、家族と彼氏を比べることなんてできないから。


でも、転校するなら、俺に相談して欲しかった。


相談しても、転校しなくてすむわけじゃなかっただろうけど。


俺と離れても、遠距離恋愛でも、いつか会おうって約束することはできたはず。


どうして葵は、約束してくれなかったんだよ。


離れるのがつらいから?


距離に負けそうだから?


その程度の気持ちだから?



葵、俺の声にこたえてくれよ。


今までと同じように、隣で笑っててくれよ。


なんで一人で勝手に決めんだよ。


『どうして』


この言葉が、頭の中でずっとループしてた。



こうして俺たちは、離れてしまったんだ。