遠まわりの糸

泉川がトイレに行ったすきに、洋介を廊下の端へ連れて行き、質問しまくった。


「洋介さ、泉川のこと知ってたのか?」


「そりゃー、同じクラスだから、顔と名前は一致するけど」


「けど?」


「泉川っておとなしくて、いっつも自分の席で本読んでるようなヤツだからさ、俺らとは世界が違うっていうか」


「ふーん、頭いいんだな」


「知らねーのか?


泉川って学年トップだぞ」


「マジか!」


「サク、もしかして、泉川に一目惚れしちまったんじゃねーの?」


「えっ、いや、その・・・」


「サクには、カオリがいるじゃんかよ」


「カオリは、ただのマネージャーだろ」


「ごまかすなよ、コクられたことあるくせに」


その時突然、後頭部をパコーン!とはたかれた。


「いってーな、何すんだよ!」


振り向くと、噂のカオリが辞書を片手に立っていた。


「なにニヤけてんのよ、泉川さんがどーしたのよ」


「・・・カオリ、どっから聞いてたんだよ」


「えーっと、『泉川に一目惚れしちまったんじゃねーの』あたりから」


「あっそ」


すきを見て教室に逃げる洋介をにらみながら、俺とカオリはC組に戻った。