ふたりとも着なれない浴衣だから、慣れるまでゆっくり歩いた。


会場の最寄り駅から河川敷までは、すでにものすごい人で。


人混みに圧倒されて、葵がはぐれてしまいそうで、何も言わずに葵の右手を握った。


葵は驚いた顔で俺を見上げたから、


「ごめん、はぐれちゃうんじゃないかと思って」


言い訳っぽくなったけど、初めて手をつなげて、すんごい嬉しかった。


「ううん、ありがとう」


「じゃ、行こっか」


人混みの中を、手をつないで進んだ。


まわりの景色が何も見えなくなるほど、意識が全部左手に集中してた。



ちょうど二人分あいていたスペースにレジャーシートを敷いて座った。


河川敷だから、地面が少し斜めになってて、座りづらい。


「葵、俺につかまってていいから」


「うん」


「葵、浴衣すげー似合ってる」


「ほんと?


ちょっと恥ずかしいけど、初めて着たんだ」


「俺も、母さんが買ってきて」


「なんか、お母さん同士が妙に張り切ってるよね」


「ほんとだよな」



少しずつ、夕焼けの色が濃くなってゆく。


「朔、軽く食べない?」


葵が差し出したのは、唐揚げとポテトだった。


ピックやウエットティッシュもあって、葵の細やかな気配りにやられた。


「うまそー、葵が作ったの?」


「お母さんに手伝ってもらって」


「いただきまーす・・・超うめー!」


「ほんと、良かった」


「葵も食べろよ」


「うん」


食べて空腹が紛れると、緊張がとけたのか、話がはずんだ。


葵が夏休みの課題を全部終わらせたっていう話に驚いたり。


俺は、部活の紅白戦でシュートを決めたこととか、葵とは対照的に課題が手つかずなことを話した。


「しょーがないな、朔、一緒に課題やろ」


「助かります」


その時、大きな花火が何発もあがった。


暗闇が一瞬で明るくなるほどの光に包まれて、体に響く大きな音に驚いて。


そっと葵を盗み見たら、色とりどりの花火に照らされた横顔が、めちゃくちゃかわいかった。