遠まわりの糸

試合が始まる前に周囲を見渡したら、観客席から少し離れたところに葵が一人で立っているのが見えた。


手をあげたら、胸元で手を小さく振り返してくれた。


その日の試合は、今までで一番集中できて、アシストを確実に決められた。


2点リードした後半残り10分で、途中交代した。


ベンチに戻りながら、葵に手を振った。


葵は口パクで『サク』って言いながら、今度は大きく手を振ってくれた。



試合も勝ち、俺は後片づけを超ダッシュですませ、葵のところへ走っていった。


「葵、来てくれてサンキュー」


「ごめんね、ちょっと道に迷っちゃって遅れちゃった。


朔すごいね、おめでとう」


「葵が来てくれたから」


「じゃあ、帰るね」


「ちょっと待って、葵。


このあと、なんか予定ある?」


「ううん、ないけど」


「じゃあさ、一緒に帰ろう。


ミーティング終わったら、すぐ戻るから」


「うん、じゃあ待ってる」



みんなのところに戻ると、洋介とカオリが近寄ってきた。


「泉川さん、来てたんだね」


「俺が呼んだんだ」


「泉川が来てたから、サク調子よかったもんな」


「まあな」


「ねえ、3人でごはん食べて帰ろうよ」


「悪い、俺、葵と一緒に帰る」


「じゃあ、4人で行けばいいじゃん」


「わかった、葵に聞いてみるよ」


「・・・なんかさ、サクと泉川さん、つきあってるみたい」


「つきあってるわけじゃないけど」


「なに言ってんだよ、サクこの前、泉川のこと好きだって言ってただろ」


「うん、そうだけどさ、葵の気持ちはまだ聞いてないから」


「じゃあ、ファミレスでいいよね?


探しとく!」


カオリが話題を変えて、俺と洋介は着替えてからカオリと一緒に葵のところへ向かった。