「・・・あの事故を起こした日、専務の娘との結婚話が本格化した。日取りまで決まってな。でも俺はそれに従った。それくらい、あのときはもう希望も何もなかった。敷かれたレールの上で走ることしかできないくだらない人生だって」


「・・・結婚」


そうだ。社長なんだから政略結婚があってもおかしくない。それを聞かされて、突然、諒なんて私が軽々しく呼んではいけないことを気付かされた。


「・・・結婚、するか、俺ら」


「は、はい?!な、何言ってるんですか?今、専務の娘さんとの結婚の日取りまで決まってるって」


「するわけないだろ。好きでもない女となんか。お前と出会ってからは表面上、何も変わっていない態度を奴らに取っていたけれど、裏で動いていた。もうあいつらに好き勝手させはしない。権限はすべて俺が奪い取る」


一瞬にして私が奪われた。運転しながらでこっちも見てくれないぶっきらぼうなプロボーズ。さらっと言っただけかもしれないのに、「はい」と頷きかけた。


結婚なんてまだまだ早いし、考えたこともなかったけれど、彼とならすぐにでも結婚したい。そんな風に思えた。