「・・・深月、お待たせ」


二十分くらい経った頃だろうか。もうおしまいだと覚悟を決めて呼ばれた声に顔を上げると、メガネを掛けていて朝見た髪型とは違う社長の姿。

朝は黒髪だった髪の色は茶色になっている。正直、私でも社長とは一瞬わからなかったくらい。ただ服装は私が好きな感じに戻っていた。


紺色のポロシャツにカーキーの半端丈パンツ。うん、やっぱりこのほうがいい。


「深月がご迷惑をおかけしました。連れて帰りますね。あなたもよかったらお送りしましょうか?」

「いいえ。私はダーリンが迎えに来て来れますので」


良かった、良かった。これなら間違いなく気づかれる可能性ゼロ。それに無理してる感じもないから新鮮な姿で好きだな。

先に車に戻ってるという社長を待たせるわけにもいかず、帰り支度をして席を立った。


「すみません、三宅さん。お先に失礼します。これ、お金・・・」


「・・・貧乏な桜木からはいらないわよ。ここは私がご馳走するわ。それより桜木、携帯の名前は変更してた方がいいわよ」


「えっ?!」


「つい、最近ショップにかかって来た電話の声と名前で分かっちゃった。大丈夫。誰にも言わないから、大変だろうけれどいつでも連絡してらっしゃい。応援してるから」


お金を渡してお辞儀をして店を出ようとした私にいらないとお金を返した後、耳打ちをする三宅さん。バレてた。でも、三宅さんの言葉が嬉しかった。


「そう。それと一つだけ気になることがあるの」