「あ、あの、本当にここで寝るんですか?」


さすがに足が持たない。それなのに、私の質問に社長は大笑い。


「さすがにこんなとこじゃ俺も眠れない。俺は別室とってる。でもご要望とあれば、別室へお連れしますよ、お嬢様」


上目遣いで私の左手を取り、微笑みを浮かべた社長はそのまま手の甲に軽くキスを落とした。驚いた私は、慌てて左手を自分の胸元に引き寄せた。こんなことされるなんて生まれて初めてすぎる。


「け、結構です。私はみぃちゃんと一緒に眠りますので」


「そうか、残念だな」


「・・・どうして、無理をしたんですか?本当はお寿司、食べれないんですよね?聞きました、さっき。社長は摂食障害だって」


クスクスと笑っていた社長だったけれど、私の言葉にピタッと表情が固まった。板前さんがさっき、私に話してくれた。


社長は摂食障害だと。食べたら食べた分だけ吐いてしまうから固形物を食べないようにしているらしい。


それなのに、私はそんなことも知らず、美味しいからと、お寿司を無理やり勧めてしまった。


そして、それをきっかけにたくさん注文して食べていた社長が本当は苦しんでいたことに気づくことすら出来なかった。