いつも思いつめた表情で、あの屋上に立っていたその子が、ずっと気がかりだった。
死を前にした私だからこそ見えてしまった、あのその子の考えが、とても悲しかった。
文字通りの老婆心で向けた言葉をどう思うかはわからないけれど、彼にも幸せな気持ちで夕焼けを眺める時が来ることを願っている。
私がこれまでに目にした、いくつもの夕焼けのように。
長い人生での数々の幸せな瞬間が走馬灯のように蘇り、私は集まった人達の顔をひとりひとり、しっかりと見つめて微笑んだ。
大事な大事な、愛する私の家族。
今、この世を去る私を惜しんでくれる、愛しい人達。
あなた達のおかげで、私はこれ以上はない最後を迎え、共に夕焼けの時を過ごし、愛した夫の元へ逝ける。
「……あり……が……と……」
熟した最後の光で病室を染め上げ、太陽は、山の陰へと沈んだ。



