名のない足跡


「あのな、まだ四時だぜ?早すぎんだろ」


片手で後頭部をポリポリと掻くウィンに、あたしは目を見張った。


「ま…さか、寝てないの!?」


「あんたも寝てねぇじゃん。お互い様、だ」


「おおおお互い様って、あれだけ休んでって言ったのに!!」


ドカッとソファに腰掛けたウィンに、あたし呆れて反論した。


「護衛隊長も多分寝てないぜ。扉の隙間から灯り漏れてたし」


ラ、ライトも…。


あたしはがくっとうなだれた。


「んなことはどうでもいいだろ。手ェ動かせ、手を」


「はひ…」


あたしはしぶしぶ手紙の続きを書き始めた。


二人には何を言ってもムダね、と今更ながら心に書き留めた。



しばらく、沈黙が続いた。


あたしが必死に手を動かしている間、ウィンは…なぜかずっとこっちを見ている。


ソファの肘掛けに右腕を乗せ頬杖をつき、足を組みながら、ずっと。



「…………」



最初の方は気にしてなかったけど、だんだん気が滅入ってきた。


確か、補佐面接のときも、こんな風にじっと見られてた気が…。


「あんたさ、」


「ほぇあッ!?」


急に話しかけられて驚いたあたしは、奇声を上げてしまった。