名のない足跡


「え…結構あるのに。これ、もう見終わったの?」


「速読得意なんだよ。パッと見りゃ大体頭に入る」


しれっと言い放つウィンに、あたしは呆れる。


なんて羨ましい頭を持ってるやつなの…。


「姫様のペースで読めばいいんですよ。見落とさないように気をつけて」


「う゛…あたしのペースでいったら朝までかかっちゃうかも」


せっかくのライトの励ましは、逆にあたしを焦らせた。


そして実際、全てのファイルを頭に入れたのは、翌日の朝だった。



最後のページを閉じ、眠たい目をこすりながら、あたしは机に向かった。


まずは挨拶の手紙を書こうと決めた。


その後は、返事次第。



ペン先にインクをつけ、紙の上を走らせる。


「拝啓、ウェルス国国王ウィリー様…、っと」


「ウェルス国から書くのかよ。度胸あんなぁ」


ウィンが執務室の扉を開けて入ってきたので、あたしは手を止めて顔を上げる。


「あれっ、ウィンってば早起きね」


ライトとウィンは、あたしより数倍ファイルの資料を早く読み終わったので、自室で休んでて、と言っていた。


…ていうか、強制的に休ませた。