名のない足跡


「メノウ交易官。これから貿易の際や取引の際に、相手にこう言ってもらえませんか?」


「…なんと?」


「カンパニュラ・イソフィラを捧げます、と」


「カンパ…?」


困ったように眉根にしわを寄せるメノウ交易官に、お願いします、と言って部屋を出た。


その際、石のように固まっていたライトとウィンの腕を引っ張って連れ出した。


「も~…情けないんだからッ」


「不可、抗力、だっ」


疲れた様子で、ウィンがきっと睨む。


「姫様、先ほどの言葉の意味は…?」


ライトの問いかけに、あたしは「ああ」と言って、肩をすくめた。


「うん、まぁ…一種の賭みたいなもんね」


他国の交易官たちは、きっと王に何も話すなーとか言われているに違いない。


こっちが何か言えば、交易官は王に報告すると思う。


あとは、王が理解をしてくれるか。


「…とにかく、メノウ交易官の話でわかったことはあるわ」


他国は、商品の輸出を渋ることもなく、今まで通りに接してくれている。


それは、交友関係を崩すつもりは今のところない、ということ。