「質問とかも、何も、ですか」
「何もない。いつも通りの挨拶を交わし、商品を輸入、輸出するだけだ」
あたしは思わず、うーんと唸って、後ろを振り返った。
「ちょっと、二人とも!少しは何か言っー…」
ライトとウィンは、ぽかんとしていた。
「え、何?どうしたの」
「無理もない。私の声を初めて聞く者は、大抵一時間は口が利けない」
「一時間!? …あれっ、あたし平気ですけど」
そりゃあ最初は聞き惚れちゃったけど、もう慣れた。
「遺伝、なのかもしれない。アラゴ様も、平気だったからな…」
うっすらと和らぐ表情は、どこか寂しく、けれど懐かしそうで。
父様のことを話すとき、みんな決まってこういう表情をする。
それが、いつも嬉しかったはずなのに。
今のあたしは、悔しいと感じてしまう。
そんな自分が嫌で、追い払うようにぎゅっと目を瞑る。
目の前のことに集中しなくちゃ、だめ。
「…メノウ交易官は、ウェルス・ネスタ・サヴァの各国に、行かれたことがあるんですよね?」
「それは勿論だが…」
「教えて下さい。各国の、あなたが感じたことを」
戦う前にはまず敵を知れ、兄様の口癖。