名のない足跡


「何のための補佐だよ。王の代わりでいるわけじゃねぇぞ?あくまでも王が主体だ。王の行動についてって、良いなら良い、ダメならダメと口を挟む。それが補佐だろ」


ぽかんと口を開けているあたしをよそに、ウィンは続けた。


「そもそも、王が行かなきゃならない仕事かどうかなんてわかんねぇし。国を離れるほど危険なことはい。出来るだけこっちに引っ張った方がいい。以上」


「あ…うん。そう」


呆気にとられていたあたしは、それしか言えなかった。


「じゃ、俺からも最後に質問」


「え…何?」



「あんたは自分の命と国の命、どっちが大切だと思う?」



吸い込まれそうな瞳を見て、真剣に聞いてるんだとわかった。


「…国も大切よ。でも、自分の命も大切。国の命を背負ってる分、あたしの命はもっと重いから」


ウィンは何も言わず、イスから立ち、小広間の扉のドアノブに手をかけて立ち止まる。


振り返ったとき、初めてウィンの笑った顔を見た。


「…あんた、いい王になるぜ」


一礼して、ウィンは出ていった。


あたしは顔を伏せ、大きくため息を吐いた。





…全ての面接が、終わった。