名のない足跡


珍しく厳しい目つきのライトに一瞬怯みつつも、あたしは軽く頷く。


「…うん。スパイがいたのもあたしのせいじゃない。わかってる」


「なら、そんな顔しないで下さい。姫様がそんな顔してたら、俺たち国民はどうすればいいんですか」


いつもの優しい口調に戻ったライトは、壁際から離れ、窓の枠に手をかける。


「…俺は、この城から見えるこの国の景色が好きです」


この執務室は、代々国王が受け継いできている。


その理由の一つは、窓から見える国の景色が、この城の中で一番良く見えるから。


「この国の景色を、姫様が護って下さるんでしょう?」


ライトがこっちを振り返り、優しく微笑む。


あたしはライトの隣まで行き、同じように窓枠に手をかけ、外を眺めた。


「………うん、護るよ」





†††


「準備はよろしいですか?ルチル様」




ついに新補佐面接の時がやってきた。


面接の為に用意された小広間の玉座に座り、目の前の机の上をチェックする。


五人の書類、質問事項。
メモ用紙にペン。


準備OK。


「大、丈夫ですっ、アゲートさん」


一対一の面接の為、アゲートさんとライトは別室待機。


心細いけど、仕方がない。