名のない足跡


「…最初から…いなくなるつもりだった…?」


あたしは、急に体が冷たくなった気がした。


「ご名答。奴らはおそらく、この国に深く関わるつもりがなかった。何かが起きていなくなっても、目立たないように。なぜなら…」


「…スパイ、だから…?」


デュモル隊長の言葉の続きを、あたしが引き継いだ。


他国の国民が、この国の城の臣下として働いていた。


王や国の行動を監視し、報告するために。


「では…アラゴ様が亡くなられたことと、姫様が即位なさったことは…」


「もうとっくに知られてる。おそらくな」


ライトとデュモル隊長が苦い顔をする。


あたしは言葉が出なかった。


「とりあえず、今後もそういう奴らが現れるかもしれない。俺とセドニーが出来るだけ注意を払う。新補佐が決まったら、入部体制等を検討し直してくれ」


「………っ、はい」


何とか声を絞り出して返事をすると、よろしくな、と言ってデュモル隊長は立ち去った。


「姫様」


ライトに声をかけられ、あたしは力なくライトの方を見た。


「デュモル隊長は、姫様にそんな顔をして欲しくて報告に来たんじゃありません。貴女に、対策を取ってもらいたくて来たんですよ」