名のない足跡


†††


「きゃー!!やばいー!!」


奇声に近い悲鳴をあげつつ、廊下を走るあたし。


目標は執務室の扉、ただ一つ。



書庫の本を元の棚に戻す作業は、簡単なものではなく、相当時間がかかった。


約束の休憩時間を、軽く一時間はオーバー。


残り数十冊のところでアニスに任せて、あたしは来た道を戻っている。


曲がり角を曲がったところで、勢いよく誰かとぶつかった。


「ぅわッ、すいません!!」


どちらとも倒れはしなかったものの、謝るあたしの目の前にいたのは…


「って、ぎゃっ!! カーネ司令官!?」


「…ほぅ。貴様が私のことをどう思っているかが丸わかりの反応だな」


よりによってこの人にぶつかってしまうとはッ!!


あたしは必死に謝ろうとしたけど、たちまちカーネ司令官に鼻で笑われる。


「ふん、今度の王は奔放としているものだ。護衛も連れずに城内を駆けずり回っているとは」


「ぐっ…」


返す言葉が見つからず、脳みそと格闘しているあたしを、カーネ司令官は一瞥する。


「…まぁ、先週の戴冠式の貴様の言葉は、認めてやらんでもない」


「………へ?」