名のない足跡


「…姫様らしいです」


あの人は、いつだってそうだ。


周りに気を配って、心配をかけようとはしない。


限界まで頑張って解決するか、限界を通り越して倒れるかのどっちかだ。


…たいてい、後者なんだけど。


誰かが止めなければ、姫様は無茶をして倒れてしまう。



分かっていながら、アラゴ様や、俺も含めた姫様の周りの人たちは誰一人、姫様を止めようとはしなかった。


止めたって聞かないことを皆分かっていたし、何より、周りから見れば無茶なことでも、本人にとっては当たり前だと考えていたことを知ったから。


「あの人はいつも、努力の限界を見せない」


ボロボロになりながらも、姫様は決まって、最後にこう言う。


『ほらね、大丈夫だって言ったでしょ』と。


―――とびきりの笑顔で。




俺がぽつりと漏らした言葉に、アゲートさんはそうだね、と呟いた。


「ライトくん、ちょっと聞いてくれるかな」


「?はい。俺でよければ」




次に出てくるアゲートさんの言葉に、もし俺が反対をしていたら。



…この先に起こる出来事が、少しは変わっていたかもしれなかった。