名のない足跡


「えっ!?おれですか!?」


「うん。物事にはいろんな見方があるんだなーって教わったわ」


上司思いの部下に恵まれて、セドニー長官は幸せ者だなぁと思う。


―――『この人、と決めたら、臣下は絶対裏切ったりしねぇから』


不意に、デュモル隊長の言葉を思い出す。


「今日の質問はナシね。また明日にする。とりあえず今は、片付けてましょ!!」


腕まくりをするあたしを見て、アニスは笑って答えた。


「…はい!!」





†††


俺が執務室の扉をノックし、中へ入ると、アゲートさんの姿しかなかった。


「おや、ライトくん」


「こんにちは。…姫様は?」


「ルチル様は休憩中だよ。仕事を終わらせるのが早くてね」


アゲートさんに席を勧められ、俺はその好意に従いイスに座る。


「アゲートさんから見て…どうですか?姫様は」


「ふふ、心配かな?大丈夫、ルチル様は飲み込みが早いし、要領も悪くない」


その言葉に、俺はほっと胸をなでおろす。


「それに、弱音を一度も吐かないところが、凄いところだね…。どんなに厳しく指導しても、辛い仕事であっても、ルチル様は常に一生懸命なさっていたよ」