名のない足跡


「おれは、これもセドニー長官の指導のうちに入ってるんじゃないかって思ってるんです。これ、見て下さい。一冊一冊に番号がふってあって、これを元通りにちゃんと並べないといけないんです。次に来た文官の人たちが本を探すのに困ってしまいますから」


アニスは手に取った本の背表紙をあたしに見せた。


"157"という数字が書いてあった。


「いちいち番号を確かめて並べるのって、大変じゃないですか。でも、題名を見ただけで、本の内容とジャンル別の棚と場所が分かれば楽になりますよね?きっと、セドニー長官はおれたちに、早く内容や場所を覚えてほしいんだと思います。その方が、作業の効率も上がりますし」


あたしは無言で、床の本を拾うのを手伝った。


「実際、長官はこの書庫の本の内容、場所を全部把握してるんです。あの本どこにありますか、って聞くと、正確な位置と背表紙の番号まで教えてくれるんですよ」


「…凄いわね」


「はい、凄いんです!おれもセドニー長官みたいになりたいんです」


「ううん、あたしが凄いって言ったのは、アニスのこと」


嬉しそうに話していたアニスは、途端に驚きの表情へと変わった。