名のない足跡


「あっ、ルチル様」


声を掛けられ、あたしは走るスピードを落とす。


そこにいたのは…


「アニス!良かった、今会いに行こうとしてたの」


駆け寄るあたしに、アニスはあはは、と笑う。


「昨日の続きですね?書庫にでも行きましょうか」


アニスは、書籍部に所属している文官の一人。


あたしより一つ年下で、大きな瞳にころころと変わる表情をもつ、可愛い少年。


あたしは戴冠式が終わったら、各部に話を聞いて回ろうと思っていた。


長官とか高官位の人ではなく、一般の官吏の人に。



愚痴とか、改善して欲しいこととか、何でもいいから話して欲しいと思って、早速戴冠式の次の日から行動に移した。


誰でもいいから最初に出会った人!


と心に決めて城内をうろうろしてた時に、丁度出会ったのがアニスだった。



文官の人は、基本個人で仕事をするらしくて、個人によって忙しかったりそうじゃなかったりするらしい。


アニスはまだ若いから、仕事量が少なく、暇な時間が多いと言うので、あたしの休憩時間の時は、遠慮なくアニスを質問攻めにした。