名のない足跡


ライトが扉を開けて入ってきた。


いつもとは少し違う軍服に身を包んでいる。


もうこの際、扉をノックしてから入りなさい、とは言う気がおきなかった。


…っていうかさ、ずるいよライト。


何着ても似合うんだもん。


「…何です?姫様」


あたしの視線に気づいたライトが、きょとんとした顔で聞く。


「んーン、何でもない。おはよーライト」


あたしはベッドから降りて、軽くあくびをする。


ちょうどミカが朝食を運んできてくれて、あたしはゆっくり食べ始めた。


「…姫様、申し訳ないんですけど、早めに食べて着替えて下さい」


「え!? 戴冠式お昼からよ?」


「いえ、各部へ軽く挨拶へ行ったらどうかと思いまして」


「…あいさつ…うん、そっか。そうね」


昨日、小広間へ集まった各部の長官たちは、あたしの為に全力を尽くす、と誓ってくれたらしい。


それなら、お礼を言わなくちゃいけない。


「あー…セドニー長官とデュモル隊長にお礼言うの忘れたわ…」


昨夜話し込んだ時に言っておくべきだった、とあたしは反省した。


ライトは、「準備出来たら声かけて下さい」と言って、自室へ戻った。


ちなみに、ライトの部屋はあたしの隣だったりする。