名のない足跡


「アズロ、ここから一番近い抜け道ってどっち?」


「え?えっと…あっちかな。厨房の裏につながってる」


アズロが指差す方向を確かめたあたしは、習ったばかりの呪文を唱え始める。


「…何する気―…って、おわっ」


アズロがあたしの手元の紙で包んだ石に近寄った瞬間、紙に炎が宿った。


その炎が石を包む前の一瞬の間に、あたしはさっきアズロが指差した方向とは、逆の方向に思いっきり石を投げた。



すると、その炎は瞬く間に周囲の葉や木に移り、軽い火災が発生する。


「敵襲だ―――!!」


誰かの叫び声と共に、衛兵たちが一斉に炎へと向かう。


衛兵の気が逸れているうちに、あたしたちは早足で城内に滑り込んだ。


「ナイス、あたし!」


「…アグレッシブになっちゃって…」


ガッツポーズをすると、アズロが呆れ気味で苦笑する。



アズロが言った通り、あたしたちが滑り込んだのは、厨房裏のようで、食料品が箱で積んであった。


厨房を覗いても、誰もいないみたいで少し安心した。