名のない足跡


「俺が…お前に代わってやれたらな…。お前の痛みがわかるのに」


兄様の背に回す手に、ぎゅっと力を込めた。


「…その言葉だけで十分だよ。こんな妹でごめんね、兄様…」


「止めたって聞かないだろーしなぁ。困った妹だ」


声は笑ってる。


でも、表情は笑ってないんだろうな。



そんなことを考えながら、あたしは兄様からそっと離れた。


兄様はやっぱり困ったような顔で、あたしの手紙を突き返した。


「…え?兄様ちょっと…」


「無事に帰って来い!帰って来たら、読んでやるよ」


…それじゃ意味ないのに!


あたしが口をぱくぱくさせていると、兄様は窓の外を眺めて言った。


「…帰って来ないなんて、嫌な冗談はやめてくれよ?」


あたしは無理やり笑っている兄様を見て、返事をするかわりに軽く礼をとった。


そしてきびすを返し、兄様の部屋を足早に立ち去った。




断言は、出来ないけど。


それでも、あたしはここが好きだから。



…戻ってくるよ。