名のない足跡


「あんま自信なくすなよ、姫さん。自分の心見失っちゃあそこまでだ」


デュモル隊長があたしの背中をポンと叩く。


あっ、とセドニー長官が声を上げた。


「デュモル、あまり姫様に馴れ馴れしくするのはよせ。主君なのだぞ」


「お前は誰にでも敬語使いすぎー、口調堅すぎー。親しめん」


「貴様となど馴れ親しみたくはないわッ」


ふふ、とあたしは自然に笑みがこぼれた。


今まで二人とは話したことがなかったけど、すごく好きになれそう。


「元気出ましたか、姫様」


「おかげさまで。ありがとライト」


セドニー長官、デュモル隊長、とあたしは二人の名前を呼ぶ。


「どうか、よろしくお願いします」


ぺこり、と頭を下げ、顔を上げたとき、二人は目を丸くしてポカンと口を開けていた。

あたし何か変なこと言ったかな…と不安になったとき、デュモル隊長は笑いだした。


「ははっ。楽しくなりそうだ。なぁ?セドニー」


「あぁ。今日ばかりは、意見が一致しそうだ」






戴冠式は、刻一刻と迫って来ていた。