名のない足跡


そんなことされると、また涙出てくるじゃない。


あたしはうつむいて必死にこらえた。


「…いつまで盗み聞きしてるんですか」


ライトの呆れたようなセリフに、あたしは「へ!?」と顔を上げる。


扉をそっと開けて入って来たのは、セドニー長官とデュモル隊長の二人であった。


「いや~気配消したつもりだったんだが…さすが護衛隊長!」


「…それ、堂々と盗み聞きしてました宣言と捉えていいんですか」


「おわっ、しまった!!」


「…全く、君といると疲れて仕方がない」


冷ややかな目線のライトに、慌てふためくデュモル隊長。


その横でため息をつくセドニー長官。


「何だよセドニー!! 元はと言えば、お前が盗み聞きの提案したんだろっ!?」


「んなっ!? 失敬な!! 私はただ、お取り込み中のようだから待っていよう、と」


お取り込み中て…。


二人の言い合いを聞きながら、あたしは心の中で突っ込む。


「…て言うか、お二人ってそんなに仲良かったですか?」


あたしはまじまじと二人を見た。


今まで、城内で何度か二人がすれ違うところを見たことはあったけど、お互いに顔を合わせないようにしているように見えた。