名のない足跡


みんなが囲む机の上に、ロナを降ろした兄様は、誰にともなく言った。


「…俺とモルファとルーカがウェルスを抜ける時、ロナだけは潜ませておいた。今から、情報を与えてもらう」


あたしとモルファとルーカ以外のみんなは、一斉に顔をしかめた。


そのみんなの気持ちを代表するかのように、アゲートさんが尋ねる。


「…ラッド様、情報を…どうやってロナが?」


「もちろん、話すんだよ。な、ロナ」


『はい、ご主人様』


ロナはその尻尾を振りながら、普通に返事をした。


当然、動物がいきなりしゃべり出したら、誰でも驚くと思う。


実際、あたしの後ろにいたアズロが、もっとよく見ようと体を乗り出し、あたしに問いかけてきた。


「えっ?何これ?腹話術?」


「違うわ。ロナは、兄様の召還獣なの」


「召還獣って…超高度魔術じゃん」


召還獣…その名の通り、召還された獣を指す。


召還獣は、主人に絶対服従しなきゃいけない。