名のない足跡


いきなり本題を話し出したあたしに驚いたのか、室内の空気がわずかに揺れた。


あたしは大きく深呼吸をして、少しずつ、記憶を辿りながら話し出した。



アズロと別れたあと、地下で見たもの。


その後、執務室へ行ったこと。


そこでのライトの反応。


ライトが、ウェルス国第二王子だということ。


ライトの口から明かされた、真実。



誰一人、途中で口を挟んだりはしなかった。


キラ元長官の話が出ると、ロードさん、デュモル隊長、セドニー長官の表情が陰った。



最後にあたしは、こう締めくくった。


「ライトは…もう、戻ってこないでしょう」


静まり返る室内。


誰もが、心の中で何かと葛藤しているようだった。



突然、窓ガラスを小さく叩く音が鳴り響いた。


一番早く反応したのは、兄様だった。


「……ロナ!」


兄様は窓辺に近寄り、鍵をはずし、シマリスのロナを抱きかかえた。