名のない足跡


「…じゃん」


「痛っ!逆の方ひっぱ…へ?」


「ちゃんと出てきたじゃん」


…何それ。


質問の答えに全っ然なってませんよ、アズロさん。



あたしは小さく笑うと、くるりとアズロに背を向けた。


「…行きましょ。場所は?」


「小広間」


短くそう言って、アズロはあたしの横に並んだ。


あたしは横目で、ちらっとアズロを見る。


「アズロってさぁー…」


「んー?」


「気配り上手だよね」


「………そお?」


何だか珍しいものを見るような目で、アズロはあたしをまじまじと見つめる。


「そうだよ。アズロは取り柄ないみたいなこと言ってたけど、そんなことないと思う」


「…おだてたって、何も出ないけど?」


「いらないわよ。本当のことだもん」


「………あ、そう」


アズロは照れくさいのか、ポリポリと頭を書く。


他愛ない会話をしているうちに、小広間へたどり着いた。