名のない足跡


突然、アズロがふっと笑ったので、あたしは驚いた。


「…えっ?何?」


「君さぁ…考えてること顔に出すぎ。モロバレ」


うっと喉をつまらせるあたしに、アズロは笑いながら続ける。


「オレ、君が起きたらすぐに連れてこいって、補佐くんに言われたんだよね」


「ほ、補佐くん…」


何だか可愛らしく聞こえちゃうのが、不思議でしょうがない。


「最初は部屋ん中にいたんだけど…何かさ、ヤだったんだよね」


「何が?」


「起きたばっかの、何の考えも固まってない君を、さっさと連れてっちゃうのがさ」


「……アズロ」


あたしは胸の奥が熱くなった。


アズロはちゃんと、あたしのこと考えてくれてたんだ。


「だから、扉の外で待ってようと思った。君が出てくるまで、ね」


「…もし、出てこなかったら?」


何気なくそう聞いてみると、アズロはまた、あたしの頬を引っ張った。