名のない足跡


「そんなの関係ないわ。アズロだって…ウェルスの人間だったじゃない。肩書きなんか関係ないよ、ライト!」


「あなたがよくても…俺がダメです」


「……何それ?」


一向に目を合わせてくれないライトを揺さぶって、あたしは続ける。


「ライトは、この国にいたくないの?みんながどうでもよくなったの?…あたしは、あたしは一緒にいたいのにっ…、こっち向いてよライト!!」


こみ上げてくる感情と、それに伴って溢れ出る涙。


あたしの悲痛な叫び声を聞いたライトは、ゆっくりだけど、こっちを向いた。



「…あなたのお側にいれて、幸せでした」



精一杯のライトの笑顔は、どこか寂しくて。


今この手を放したら、消えてしまいそうな気がした。


「…ッ、ライ…」


開きかけた唇を、そっと、ライトが遮った。


唇が触れるくらいの、小さな小さな、キス。



「さよなら」



いつの間にか放してしまっていたあたしの手のひらをすりぬけて、ライトは暗闇へと消えた。






小さな温もりを残して。