名のない足跡


ライトがあたしのすぐ後ろに立ち、上着の裾を持って、バルコニーの手すりに手を置いている。


端から見れば、あたしはライトの上着で、隠れて見えないかもしれない。



「風避けです」



ライトの声が、息が、すぐ近くに感じられた。


「上着を貸せれば格好いいんですけど、あいにく俺も寒がりなんで」


「…知ってるよ。ライト、すっごく冷え症じゃない」


あはは、と笑うライトにドキドキしながら、必死に冷静を保つ。


でも、こんな時に限って、話すことが見つからない。



自分の心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかって、気が気じゃなかった。



「…姫様」



ライトの声にドキッとしたあたしは、少しうわずった声で返事をする。


「…ん?何?」


「…誕生日、おめでとうございます」



一瞬、あたしは心臓が止まるんじゃないかってほど驚いて、後ろを振り返った。


さっきよりも、心臓の鼓動が速くて、再び寒さが戻ったことに気づかなかった。