名のない足跡


近くに人がいないのを確認して、あたしは言った。


「…兄様、作戦の方は大丈夫なの?」


「そんな心配しなくても、大丈夫だって」


あたしの頭をポンポンと優しくなでながら、兄様は笑って言った。



「ルチルは、ちゃんと俺が護るからさ」



あたしは、無言で兄様の肩に頭を乗せてから、呟いた。


「…かっこいーこと言っちゃってさ、兄様のばか」


「ばかって言う方がばかなんだぞー?」


あたしと兄様は、顔を見合わせて笑った。


あたしの兄様が、兄様で本当によかった。


心からそう思えるくらい、あたしは兄様が大好きなんだよ。



あたしが、じゃあまた後でね、と言って立ち去ろうとすると、呼び止められた。


「ルチル」


「ん?」


振り返ると、兄様はにかっと笑ってピースをした。


「…今日は、めいっぱい楽しめ!!」


「…うんっ!!」


笑顔でそう答え、あたしはまた、人混みの中へと姿を消した。