名のない足跡


「ルチル様!!」


声をかけられ、振り返るとアニスがいた。


「アニス!久しぶりねっ!元気?」


「元気です!…あの、これ、プレゼントです!!」


アニスは、小さなピンクの紙袋を、あたしに差し出した。


「う…わぁ、ありがとアニス!」


アニスから受け取った紙袋の中には、小さな花をモチーフにしたブローチが入っていた。


あたしはブローチを手にとって、まじまじと眺める。


「すっごく可愛い…!本当にありがとね、アニス」


「喜んでいただけて、嬉しいです」


そう言って、えへへ、と笑うアニスにもう一度お礼を言って、あたしはまた人混みに突っ込む。



「…あ!」



しばらくして、あたしは目標の人物を発見した。


すみません、ちょっとごめんなさい、を繰り返しながら、あたしは前に進む。


「…お、ルチル!」


「兄様っ!!」


のんきに挨拶をしてくる兄様の腕をつかみ、思いっきりひっぱる。


そのまま、死角になるような壁際まで移動した。