名のない足跡


†††


俺は、崩れ落ちる姫様の体を、とっさに支えた。


「気を、失ってしまいました」


俺は、自分の腕の中で気を失っている姫様を見た。


王妃様に加え、王様まで亡くしてしまった…


「…無理もないでしょう。お父様を亡くしてしまったのだから」


書籍部のセドニー長官が苦い顔で言った。


続いて戦闘部のデュモル隊長が、落ち着いた口振りで、アゲートさんに問いかける。


「死因は何なんだ?事故死か、病死か?それとも…殺人?」


「国王様は…ご自分で命をお断ちになられました」



―――じ、自殺!?


ざわ、と空気が揺れた。


一国の王が、何故自殺など。そもそも…


「何故自殺だとわかるのです、アゲート様」


セドニー長官に不審な目つきを向けられ、アゲートさんは慌てて言った。


「嘘などではありませぬ!昨晩、国王様は私を地下室へお呼びになったのです!」


アゲートさんの言い分は、こうだ。



もともと、国王には魔力があった。


なので、国王は何かあると必ず魔法で自分と連絡をとる。


昨晩も、魔法による伝言が自分に届けられた。


今すぐ地下室の宝庫へ来てくれ、その後のことはお前に任せる、と。