名のない足跡


「あらっ、姫様?」


ミカがあたしに気づいて、寄って来た。


「ミカ、これはいったい…?」


「彼女たち、ライトさんが好きなんですよ。渡しに行くからって、私もつき合わされたんです」


ミカは、ため息をついて他のメイドさんたちを見た。



―――好き。



あたしの中で、ドクン、と何かが脈打った。


ライトがモテるのは、前から知っていたのに。


…なのに、何でこんなに落ち着かないの?



相変わらず、メイドさんたちはライトに話しかけている。


それに対して、ライトも笑顔で対応していた。



ドクン。


新たな感情が、あたしの中に流れ込む。



―――イヤ、誰かに笑いかけないで。


そんな表情で、話さないで。



あたしだけを見てよ。


あたしだけに、笑いかけて。



「―――ッ、嫌!!」



あたしが突然出した声に驚いて、ミカとメイドさんたち、そしてライトがこっちを見る。


「…姫様?」


「な、何でもない…ごめんね、邪魔しちゃって」


声が震えないように、なるべく元気に聞こえるように、あたしは無理に笑った。


そしてすぐに、その場を走り去った。